
良いデザインを知る
お客様にとっても、若手職人にとっても、新たな世界が広がる「entrance」に
会社の長年の課題であった、蓄積していく残糸を活用したentrance。材料のアップサイクルに加え、お客様にも若手職人にもメリットがあるじゅうたんだといいます。
オリエンタルカーペット株式会社の渡邊篤志さんにお話を伺いました。

受賞作品「entrance」
日々の暮らしに溶け込む、新スタイルの山形緞通。
― 開発の経緯について教えてください。
根底にあったのは、2012年に立ち上げた「山形緞通」ブランドを次のフェーズに進めたいという考えでした。entranceの開発プロジェクトをスタートしたのが2020年の年末、ブランドとして10年目を迎えようとしていた頃です。
― コロナ禍に入って1年くらい経った頃になりますか。
はい。実はそのことも製品のコンセプトに大きく影響しています。ご存知の通り、世の中の大部分の方が、コロナをきっかけに多く時間をご自宅で過ごすようになっていました。
ブランド立ち上げ以来、山形出身の奥山清行さんをはじめ外部デザイナーの方とのコラボレーションに力を入れ、「主役になれるじゅうたん」を多くつくってきましたが、そのような社会状況から、もう少し日々の暮らしに取り入れやすく溶け込みやすいじゅうたんもつくっていきたいと考えたんです。
そこに「若手職人の育成」「顧客の新規開拓」「残糸のアップサイクル」など、会社としてクリアすべき課題も組み合わせる形でコンセプトを設計し、開発を進めていきました。
さまざまな経営課題をクリアする、山形の風景の形。
― 課題と製品コンセプトは、どのように関係しているのでしょう?
若手職人育成の要素は、デザインに取り入れています。直線よりも曲線の方が織るのが難しいんですが、シンプルなモチーフの中に曲線を多く取り入れることで、若手職員が技術を磨きながら十分な品質も維持できるデザインとしました。モチーフは、すべて山形の風景をイメージしたものです。
顧客の新規開拓の要素は、価格帯に取り入れています。若い方々にも気軽に手に取っていただき、当社について知るきっかけとしていただけるよう、3万円台というリーズナブルな価格を実現しました。
残糸については、創業以来当社が抱えてきた課題です。当社は染色も自社で行っていますが、不足が出ないよう余裕を持って染める必要があるため、どうしても発生してしまうんです。これまでも糸の状態で販売したり、展示会などで販売する限定品の原料として使用したりしてきましたが、それでもなかなか消化し切れずにいました。
― entranceという名前に込められた思いについて、教えてください。
この名前も、コンセプトと深い関わりがあります。お使いいただく場所 = 玄関という意味だけではなく、新しいお客様にとっては、当社の製品について知っていただく「entrance」となり、若手職人にとっては、一人前の職人となるための「entrance」となってほしい。そんな思いを込めました。

技術修練の機会として職人の入り口となり、若い世代が高品質なじゅうたんに出会う入り口となり、そして玄関を彩る住空間の入り口となる。
可能性を引き出し、まだ見ぬじゅうたんを模索する。
― entrance、今後はどのような展開を計画していますか?
計画と呼べるほど確定的なものではないですが、モチーフを追加するか、無地にするか、何らかの形でデザインは増やしていきたいと考えています。若手職人の育成や残糸のアップサイクルなど、コンセプトについては、この先もずっと大切にしていきたいと思っています。
― 会社としての展望は、いかがでしょう?
創業から91年、じゅうたん本でやってきましたが、まだまだやれることはあると思っています。近年では、クッションをつくったり、ソファーのベンチにじゅうたんを貼ってみたり、entrance以外にも日々の暮らしに取り入れてもらいやすい製品を開発してきました。これらのように形を変えるということだけでなく、じゅうたんに使う羊毛をまったく違う用途で活用するということでもいいと思うんです。引き続き、外部の方からもアイデアをいただきながら、じゅうたんの可能性を広げていきたいですね。
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ライター:sponge 工藤 拓也
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膨大な残糸の中から、適した色を厳選し、最適な組み合わせを一つ一つ選び抜いていく。生産過程で生じる残糸では同じ配色のじゅうたんを大量に作れないからこそ、一点ものという新たな価値も生まれた。


