やまがたのデザイン

山形エクセレントデザイン2017 デザイントーク「エクセレントデザインからエクセレントビジネスへ」

山形エクセレントデザインは、県内でつくられた優れたデザインの製品を選定・顕彰する事業として平成9年からスタートし、今回で10回目の選定となりました。これを記念し、平成29年12月に、表彰式と併せて審査委員によるデザイントーク「エクセレントデザインからエクセレントビジネスへ」を開催しましたので、その一部をご紹介します。

〈開催概要〉
山形エクセレントデザイン2017 表彰式&デザイントーク
日時:H29年12月4日(月)14時~17時
会場:県高度技術研究開発センター
トーク登壇者:赤池学氏/㈱ユニバーサルデザイン総合研究所 代表取締役所長、石川俊祐氏/元IDEO デザインディレクター・Any Projects共同創設者、川上典李子氏/21_21DESIGN SIGHTアソシエイトディレクター、中山 ダイスケ 氏/㈱ダイコン 代表取締役、東北芸術工科大学グラフィックデザイン学科教授、日野 明子 氏/スタジオ木瓜 代表、森谷 昌美 氏/mujina design 代表

トーク登壇者(審査委員)の6名。左から、中山氏、川上氏、赤池氏、石川氏、日野氏、森谷氏。


赤池:山形エクセレントデザインの審査委員の方々は、皆さんプロのデザインの実践者です。その意味では審査も厳しいですし、やはりビジネスそのものをデザインとして捉えている。そういう問題意識を持っておられる皆さんなので、今日は4点のポイントに絞って、審査委員の皆さんにご提言を頂ければと思っております。それでは、まずは川上さんから、①私が考えるエクセレントデザインとは②記憶に残る私の逸品のお話をお願いいたします。

川上:私は21_21デザインサイトという都内の施設で、デザインの展覧会やワークショップなどの企画をしているんですけれど、デザインというのは生活の全ての企画に関わりがあるということをいつも大事にしています。私たちの目の前に形となって結実し、多くの人に使われていくモノそのものはもちろんのこと、そこに至るまでの企画やそれぞれの段階で、検討され、工夫され、一つずつ解決されてきたもの、その全てが大事であると思っています。もう一つは、デザインには異なる領域やそれまで接点のなかったものを橋渡しすることができる、あるいはその結節点になりうる可能性や力があるということです。その力は新しい仕組みを作ったり、新しい動きを起こすことにもつながります。そういった視点から見ていくと「飾りコマ*1」は、伝統的な技術を、現在、そしてこれからに繋いでいくという目で非常に素晴らしい提案だと思いました。それから「もくロック*2」も、技術力はもちろんですが、その背後にある着想や実現までの関係者の想い、「やまがた絆の森プロジェクト」という森林そのものに目を向けた取組みを含む全てを評価したいと思います。

赤池:僕も「飾りコマ」は、郷土の民芸の記憶というものが、非常にモダンにデザインされてるなと感じました。それと「もくロック」さんの取組み、素晴らしいですよね。培ってきた三次元の精密加工の技術を、地域の木材に眼を向け、展開している。是非引き続き、頑張っていただきたいと思います。それでは、次に石川さんお願いします。

*1 飾りコマ/(株)つたや物産、*2 もくロック/(株)ニューテックシンセイ

石川:はじめまして、石川です。何がデザインかということに関しては、こちらに全て書いてあるんですよね。「モノの色や形だけでなく、問題解決のために計画を立て、色々と創意工夫する行為」です*3、と。私はこの“創意工夫する行為”というのはとても勇気のいることだと思っています。そういった、勇気ある、何か新しいものを誰かのために生み出そうじゃないかとか、そういう行為自体がデザインだと思っています。
僕が挙げさせて頂くのは、森の家の「リンゴリらっぱ*4」のお仕事です。勿論グラフィックも非常に素敵だなと思うんですけれども、ここの素晴らしいところは、デザインとビジネスが一体となって、融合したものとして世の中に出されていっているということです。これまでりんごを作っていた農家が、今までと全く違ったお客さんと新しい接点をつくるために、ジュースを作ってみようと。ジュースにすると同時に、りんごの種類による味や甘さの違いを季節感で包み込むなど、様々な課題を解決している。色んな試行錯誤を行うことで、皆の手に届くようなものに落とし込まれている、誰の手にも届きやすいような優しいデザインになっている。本当に素晴らしいなと思います。

*4 リンゴリラッパ100%ストレートジュース・シードル/森の家

赤池:そうですね。僕もユニバーサルデザインを提唱した建築家のロナルド・メイスさん*5にデザインについての指導を受けてきましたが、全く同じことをメイス先生もおっしゃっていました。経営そのものがまさに究極のデザインなのだと思います。では、森谷さんお願いします。

森谷:山形市でグラフィックデザイナーをやっております、森谷と申します。審査委員の中では、私が山形に一番近い形で理解していると思いますので、そういう視点からお話できればと思っております。
記憶に残る私の逸品は、つたやさんの「飾りコマ」です。コマという伝統工芸をシンプルに見直し、台座を付けてオブジェにすることで置き場所にも困らない逆転の発想、何よりキャラクター性を持たせたことで、今後の展開としても無限なのではないかと思っています。
私は今回で二度目の審査なのですが、前回にも増して多くの作品にデザイナーの存在を感じました。私がUターンしてきた当時は、山形にデザインという仕事自体があるのかなという状況でした。芸工大さんができてから25年ぐらい経っているんでしょうか。今回受賞された方々をはじめ、デザイナーが山形でデザインを仕事としてやっていけていること自体が、個人的には非常に感慨深いものがあります。

赤池:今 県内で、デザイン思考が正直なところ浸透しているという印象を持っていらっしゃいますか?

森谷:えぇ、芸工大さんのおかげもあり、デザインという言葉自体は結構浸透しておりますし、企業さん側からも、デザインが大事だという言葉をよく聞くようになりました。

赤池:そうですね。デザインを施し、何らかの形でプロダクトとして商品になっていく時に、大切なのは記号化なんだと思うんですね。記号として、多くの人たちが瞬間的にその価値を理解できるか、そういうメッセージがこの飾りコマの中には形になっていると思います。もう一つは、補助線というキーワードです。今回、泣いた赤鬼がモチーフになっていますが、飾りコマと他の童話とか昔話と補助線を引いた瞬間に、そこに新しい価値やメッセージが生まれてくるんだと思います。では続いて、日野さんお願いします。

日野:私の思うエクセレントデザインは、生活に馴染むものが一番だと思っています。あとは持続性もすごく重要ですね。これはずっと使っていきたい、いつでもそばに寄り添っておきたい、そういう物。それから統一感を保つために、自分の芯を忘れないこと。その芯があることが、使う人には安心感につながりますので、生活に馴染むもの、持続性がある、統一感がある、これが私の思うエクセレントデザインです。
記憶に残った物は、ツルヤさんの「ハイル*6」です。こちらはデザイナーさんが物凄く緻密に線を引き、サイズ感を考え、それを試して、不具合はないか、ツルヤさんと一緒になって熟慮して製品化されたものです。これを一人でも多くの人に繋げられるよう、きっちり営業をして、作り続けて、売り続けていっていただきたいと思います。
それからエクセレントデザインのほんとに素晴らしいところは、一年おきにこの授賞式が行われていますが、その空いた一年、何もやっていない訳ではなく、奨励企業を主な対象として、フォローアップ事業があるんですね。私は一昨年のブラッシュアップスクール*7に関わらせて頂いたのですが、その時にブラッシュアップされたのが、仏壇の彫刻師である芦野さんの「kiboriブローチ*8」でした。生活ってどんどん変わっていきますから、大きな仏壇をお家に置く人も減っています。でも技術は残したい。いつか来る仕事のために、自分の技術を何か変化させて、磨き続けなければいけないわけです。それをうまく落とし込んだのがこのブローチだと思うのです。でも物をつくっただけでは売れないということをスクールで学んで、箱を考え、チラシを考え、売り方を考え、すごくステップアップしたと思います。ですので、エクセレントデザインを知らなかったというお友達や知り合いの企業さんには、このことをお伝えして、決して賞を取ることだけが最終目的ではなく、その続きもあるということを知らせていただけたらと思います。

*6 ハイル/(有)ツルヤ商店、*8 kiboriブローチ/芦野和恵

赤池:僕も実は木彫りのブローチ、すごく気に入ってるんです。今まではこの領域の商品しかつくっていなかったけれども、同じノウハウで全然違うところに、何か新しいものづくりを提案することができるんじゃないかとか、そういうこと考えてみるだけでも、新しい事業が生まれてくるのだと思っています。それでは中山さん、よろしくお願いいたします。

中山:こんにちは、中山です。デザインとは、という意味では、パンフレットの最初のところに、エクセレントデザイン賞の考え方として書いてあるんですけれども、ほんとに創意工夫そのものなんですね。それはつくった後に、創意工夫をくっつけるんじゃなくて、創意工夫で物が生まれるので、デザインの思想はほんとは頭からあるはずなんです。なので最初から、デザインと物とのやりとりは、全部一緒に考えられるっていう考え方に、早く県全体が、ものづくりする人全体が、なっていけばいいなと感じています。
私が個人的にすごくいいなと思ったのは、酒田米菓さんの「オランダせんべいFACTORY*9」です。皆さんご存知のお菓子ですが、いつものように売るんじゃないんですね。オランダせんべいというのは、どんなところでどういう風につくられているかという場所のデザインをされました。つまりファクトリーを見学できるようにつくったんです。これは非常に大事で、つくっている場所を見せるというデザインの一つの方法だと思います。

*9 オランダせんべいFACTORY/酒田米菓(株)。中山氏はこの他、買ってみたいだけでなく、行ってみたくなるためのデザインとして、「eat M eat/(株)和農産」「ウフウフガーデン/(株)山田鶏卵」にも触れられた。

赤池:ありがとうございました。例えば、スティーブ・ジョブズの有名な言葉があるんですけど、「これからのビジネス・デザインというのは、名詞でなくて動詞なんだ。私たちがつくりたいものは、電話という物ではなくて、新しい電話を生み出すことによって生まれる、経験という価値をデザインしているんだ」と。中山先生のお話も、新しい物と合わせて、その売り場をつくることも含めて、どうやって経験という価値を物と抱き合わせにしてお客様に伝えていくかということが、あらゆる領域で重要になってくるのだと考えさせられる良いお話だったと思います。
これで丁度パート1が終わった感じになるんですけど、後半の③エクセレントデザインをどうエクセレントビジネスにしていくか、そして④山形であることをいかに価値にしていったら良いのかについて、これも川上さんから。

川上:今回10回目ですね、素晴らしい成果をあげていて、事業者の方、デザイナー、地域の教育機関といった各社がすでに良い形で育ってきていると思うんですね。私たちも選考に関わって、これは山形じゃないと生まれて来なかったなと驚かされる、毎回「おっ!」と思う提案に出会える審査です。それだけにこの実績を県外の皆さんにもどう伝えていけるのだろうかと考えます。多くの方が山形のデザインの魅力を知り、山形に来ていただけるような動きもつくれないか、個々の取り組みをもう少し「面」としてで伝えられるような、そういう形でのファンのつくり方も試みていけると良いのではないかと思います。

赤池:山形であることについてはどうですか?

川上:応募プロジェクトの幅広さがまず他にはない強みだと思っています。伝統的なものづくりの歴史があり、そして最先端の技術もある。その両方が、農業、林業等と結びつき、一番初めに申し上げたことですが、「デザインとは何かと何かを結び付ける総合的な活動である」と考えた時の、まさに大事な骨格がここにあると思います。なので、その強みを活かし、もっと自信を持って紹介していくことが、県内の皆さんにとってさらに良い状況を拓いていくだけでなく、日本や世界のデザインに対して、非常に重要な問いを投げかけることにもなるのではないかと思っています。

赤池:ありがとうございます。今の話はこれからの社会のデザインとすごく関係していますね。やっぱりこれからの価値って、幸せを最大化していくこと。そのための一番のポイントが、多様化だと思うんですね。山形県は、4つのエリアの歴史も文化も違いますが、逆にその4つの可能性みたいなことを大きな力にして、県として戦略的なデザインブランディングをかけていくことが大切。このことは知事がおられればもっと強く言いたかったことなんですけれども(笑)。山形は、色んな可能性を持っていると改めて感じました。ありがとうございます。じゃあ、石川さん。

石川:これ結構、難しい問いですよね。何か単にお金を儲けるだけじゃないところで何ができるんだろうとか、社会のためにどういう風に貢献できるんだろうとか、もしくは新しい文化とか、何かそういうものに繋がっていかないかとか。日々そういうことを考えながらコンサルティングをやっていると、人を困惑させるんですけど、先ほど赤池さんが言ってた文化、幸せとかそういう話が非常に面白いなと思っていて、山形県らしさという意味では、優しさみたいなところが非常にあって、利他的に他人の事も考えてコラボレーションができているから、何か良い物ができているような気がしているんですよね。山形県のビジネスのつくり方が、思いやりがあるというか、何かそのビジネスをやりながらも、つくり手も買い手も地域も、みんなが嬉しい状態になったところを、どういう風に世の中に出していくか、そういうところがちょっと面白いなと。そこでデザインというものも表層的に捉えるんじゃなくて、ビジネス自体、会社自体を我々はつくっているというようなメッセージになっていくと、他県も学んだ方がいいようなモデルケースになっていきそうな気がしています。そもそもデザインとビジネスって別物ではないので、素晴らしいデザイン、素晴らしい何かをつくろうと思えば、そこにはデザイナーが必要であり、素晴らしいビジネスが必要であり、素晴らしい技術が必要でありというところなので、そういうものをどのくらい本気で出来るかっていうところだと思うんですよね。

赤池:ありがとうございます。僕も山形に長く通い始めて、ほんとにお人柄の良い方々が非常に多い半面、ビジネスの野心が乏しい部分もあるように感じていましたが、売り手良し・買い手良し・世間良しという言葉があるように、これからのビジネスは、事業益だけではなく、公益とも両立させていく。そういう事業のデザインがこれからますます重要になってくる。それはまさにおっしゃられた、思いやりのあるビジネスのつくり方なんだろうと思います。当然、物や製品である以上は、やっぱり技術がもたらす機能的な品質っていうのは譲れないと思います。しかしこれからは、心や五感に訴求していく感性的な品質の部分を合わせて考えていかないといけない。ここをうまくデザインすると、共感した、感動したという、そういう価値を引き出していけるのではないかなと思っています。山形の県民性みたいなことも、実はエクセレントビジネスの大きな鍵なのだということを、改めて感じました。ありがとうございます。じゃあ、続いて森谷さんからお願いします。

森谷:非常に難しいお題を頂きましたが、エクセレントビジネスの前に、エクセレントデザイン自体を浸透させることが必要と考えております。企業の方はだいぶ浸透している部分があると思うのですが、県内のデザイナーやデザイン事務所をもっと巻き込んで、一般の人にも知れ渡るようにして。グッドデザインのように誰もが知っていて信頼のおけるアワードになれば、商品を購入する際の選択肢のひとつにもなると思うのです。
そこで山形であることを価値にするにはですが、いっそのこと「山形のデザイン」自体を価値にしてはどうかと思っています。デザインというカテゴリーに入れてしまえば、食品だろうが、繊維、工芸品、精密機械、全てが一覧できるのかなと。例えば、山形県のホームページにデザインのコーナーがあって、そこで色んなカテゴリーが一気に載せてあるとか。とにかく、県内外の一般の人にまでアピールしないことには始まらないのかなと。山形のデザインというものをこれから皆で持ち上げていって、よその県から見たときの価値にできないものかなという風に考えております。

赤池:山形で物をつくっている人達をブランディングする*10ということですね。それも、ブランディングの仕方にもう一工夫、色んな分野で、工業製品もそう、農業の分野でもそう、伝統工芸でもそう、つくっている人の見せ方をうまくやっていくと、新しいインパクトが生まれてくると、森谷さんのお話を聞いて感じました。じゃあ、日野さんからもお願いいたします。

*10 山形県のブランド戦略として、県内のものづくりに携わる女性にスポットを当てた動画「ものの婦」を2018年2月に公開した。監督に戦場カメラマンの渡部陽一氏を起用し話題となっている。

日野:すごく楽天的に言ってしまいますと、一番重要なことは「愛」だと思ってるんですね。大勢の前で「愛」というのも恥ずかしいのですが、それをまた三か条で言いますと、私が重要だと思うのは「地域性」と「営業力」と「信頼関係」だと思っています。まず「地域性」というのは、暮らし方であったり、素材であったり、気候であったり、色々ありますが、ほんとに山形にしか無いものがいっぱいあるんですね。皆さんは毎日暮らしているので素通りしてしまうことも、実は他県の人にとっては、ざわっと心が動く、すごく素敵な物があると思いますので、それを一個一個見直して、常にチェックしていくことが必要だと思っています。次に「営業力」というのは、やっぱり良い物をつくったならば、長く売り続けてほしいんです。自分の仕事が営業なので、過去のエクセレントデザインのカタログとかを見て、これを扱いたいなと思った時に、もうつくっていなかったらすごく悲しいんですね。ですから皆さん、物をつくる時には責任を持ってつくっていただきたいです。もしそれが売れなくなったのであれば、どうして売れないのかということをきっちり考える必要があります。私は、山形以外の地域にもアドバイスで行きますが、良い物なのに埃をかぶっていることがよくあって、何かなと思うと地元の問屋さんから売れないと言われたと言うんです。要は売り先が間違っているんですね。地元の問屋さんでは売れなくても、他のところに行ったら売れるかもしれない。そういった広い視点を持つ粘りの営業力は絶対必要だと思います。それと「信頼関係」ですが、これは色んな信頼関係があって、自分のつくった物に対する信頼がまず重要です。自分がつくった物を信頼していなかったら、売れないと思うんですね。それからデザイナーとの信頼関係も、もの凄く重要だと思います。色々なマッチング事業とかで、お仕着せのようにデザイナーさんを紹介されることもあると思います。その時に疑問に思ったならば、侃々諤々とやり取りしなければいけないと思うのですが、往々にしてあるのは、デザイナーという横文字の人に対しての、腰の引け方ですね。あの人たちの方が偉いから、私たちは言うこと聞かなきゃいけないんじゃないかと思い込む人が多いのですが、そんなことはなくて、デザイナーさんはデザインはできるけど、やっぱり主役はつくり手なんですから、イーブンな、対等な関係であるということを絶対忘れないでほしいんです。そのやり合った結果が、信頼関係に繋がると思うので、その信頼関係を築いてほしいですね。あと絶対必要なのは、売り先に対する信頼関係です。売り先及び買ってくださったお客様に対する信頼。その信頼を裏切っちゃいけないし、営業先もこの人ならばちゃんと扱ってくれるという風に、熱い気持ちを持っていくと、やっぱり売られた方も買う側も、この人の物はちゃんと売ろうと思うと思います。ですから、地域性、営業力、信頼関係を大切にしてほしいと思います。これを実践すれば、たぶんビジネスは成功に近づいていくのではないかと思います。あとは自信を持って自分が買いたいなと思えるもの、それをつくっていくことが一番重要だと思います。

赤池:その通り、感銘しました。では、中山先生、お願いします。

中山:皆さん、おっしゃったこととほとんど同じです。「山形」というキーワード・言葉ですね、東京で見てて感じるのですが、「山形」という単語そのものが今すごくブランドなので、乗った方が良いと思います。私も東北芸工大と言う時に、「山形の」と言います。仙台だと思われてしまうので。山形の東北芸工大から来ました、と言うのですが、山形と言うと信頼関係ができていると思います。あとは先ほどの日野さんの話でもありましたが、デザイナーを信用するという以前に、印刷屋さんを信用しないということです。印刷屋さんを選ぶ時に、そこはちゃんとデザインしてくれるのかを見なければいけないです。営業さんと一緒にデザイナーさんも来てくれるような印刷屋さんが最近増えていますから、そういうところとアイデアの話をしてみてはどうでしょうか。その時に、横文字にビビらないってありましたけど、大したことないですから、デザイナーなんて。タクシーの運転手が運転と道をよく知っているのと一緒で、僕らは色、形と、その使い方を一般の人より知っているだけなので、選ぶのは皆さん、オーナーさん、クライアントさん、僕らを使う人たちですから。抽象的でもいいですし、擬音とかでもいいですから、もっとバーンとした、ギュッとした、キュキュってなった色が欲しいんだとか、なんでも良いので、いっぱい無理難題をぶつけてくれたら、それをロジカルに、論理的に、色や形、紙質や値段に落とし込んでいくのは我々の仕事なので。どんどん付き合っていければいいなと思います。あと、良く学生に頼むというパターンがあるのですが、学生って赤ちゃんなので、学生にものすごく沢山頼んでも、なかなか出てこないです。学生に頼んでほしいですけど、学生に頼むということは一緒に付き合ってあげて下さいね。芸工大の学生に頼んだらこんなのできちゃいましたと、よく怒られるのですが、学生はまだ学んでる途中なので。今言ったようなやりとりを学んでいますから、学生と一緒につくる時は、本当に家族で一緒につくっているような感覚でやっていただけると、見たことがない物ができると思います*11。そういうものを沢山、僕も今まで見てきたので、面白い付き合い方ができるといいですね。

*11 東北芸術工科大学と企業の産学連携プロジェクトから生まれた商品の事例(いずれも受賞製品)。やまが炭/㈱長沢燃料商事、「えんむすび」塩むすび特選ブレンド米/農事組合法人山形おきたま産直センター、純米吟醸酒 つや姫なんどでも/東の麓酒造㈲(「つや姫なんどでも」は2013の大賞)

赤池:ありがとうございました。中山先生もおっしゃられた学生の使い方もさることながら、勿論芸工大さんが輩出したデザイン人材は是非前向きに使って頂きたいと思っています。最後に、審査員チームとして偉そうなことを言ってしまうと、実は今日、ご受賞された事業者の皆さんそのものが山形のデザイン人材というか、宝なんじゃないかと思います。是非、横の連携もさることながら、それぞれの段階でのデザインのノウハウというのをもっと横に展開させる、あるいは県内の他の事業者さんに皆さんのやってきた思いとか努力とか、そうしたものを是非広めて頂ければなという風に考えております。本日は、ご清聴ありがとうございました。


*3 エクセレントデザインの根底にある思想。山形県のデザイン振興指針で定義されており、エクセレントデザインの募集要項や選定品パンフレットに大きく記載されている。

*5 ロナルド・L・メイス(1941~1998)
アメリカの建築家・工業デザイナー。ノースカロライナ州立大学を拠点にユニバーサルデザイン(UD)推進の中心的役割を担い、UD定義の提唱代表者となった。

*7 ブラッシュアップスクール
エクセレントデザイン奨励企業を対象として、売り場視点から商品のブラッシュアップや販路開拓手法を学ぶスクール。生活用品系の企業は、受賞製品と併せて展示会出展の機会があり、スクールで学んだことを実践する場も設けられている。


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(編集:月本久美子)

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